エルサレムで主夫はじめました

~~~~~~~~ 30年間のサラリーマン生活から早期退職をして、イスラエルのエルサレムに家族で住み、主夫をはじめました。 ~~~~~~~~~~~~~~インターナショナルスクールに通う子供たちの様子、イスラエルとパレスチナの日常、主夫の心境などをつづります。 内藤 徹~~~~~

#19 エルサレム旅行で大切な3つのテーマと5つの訪問先

先週まで、母と兄が6泊我が家に泊まっていた。83歳になる母はクリスチャンで、キリストゆかりの地を自分の目で見て周るのを楽しみにしてきた。健脚で、着いて翌日は旧市街を中心としたキリスト教ゆかりの地を2万8千歩も歩いて周った。1泊2日の小旅行も含め、ある程度余裕をもった日程にしていたが、それでもいろいろ見すぎて、「一体いつ、どこに行ったかさっぱり分からなくなっちゃったわ」、と何度もぼやいていた。

この地はあまりにも見るべきものがたくさんあり過ぎる。そして、単に数が多いだけでなく、学べるテーマがいろいろある。だから、頭の整理をしないと消化不良を起こしてしまう。そこで、今般あらためて、エルサレムに来る人に大切な3つのテーマについて整理し、5つの訪れるべき訪問先とあわせて紹介したいと思う。

1.ユダヤ教キリスト教イスラム教の歴史

~「①嘆きの壁」「②聖墳墓教会」「③岩のドームとアルアクサ・モスク」

エルサレムの旧市街は1km四方ほどの広さの場所だが、その中に3つの宗教の重要な施設がそろっている。旧市街の中心あたりは、もともとキリストが十字架にかけられた丘で、そこにキリストの墓がある聖墳墓教会という重々しく立派な教会がある。旧市街の東側は神殿の丘と呼ばれ、かつてユダヤ教の神殿があった場所である。今はイスラム教にとって3番目の聖地で、タイルの美しい岩のドームと、アルアクサ・モスクがある。神殿の丘の西の外壁は嘆きの壁と呼ばれ、ユダヤ教信者がかつての神殿の方向に向かい、黙々と祈りをささげる聖地となっている。この3カ所は、エルサレムに観光に来る人は必ず訪ねるべき場所である。それぞれの場所に身を置くと、世界中から集まる信者の思いが産み出す念や情熱を体感することができる。

そして、この3カ所を訪れることがきっかけで、どういう歴史の経緯があってこの地に3つの宗教の聖地が集まったかを考えることにもなる。僕も知らなかったけど、実はユダヤ教キリスト教イスラム教も、そもそもは同じ仲間の宗教で、旧約聖書に登場するアブラハムが、3つの宗教の父であり祖先なんだそうだ。「アブラハムには7人の子」の歌にもなっているアブラハムは、実はすごい人だったのである。で、アブラハムが、神から与えられて今のイスラエルの方にやってきて、自分の息子の命を捧げてまで神への忠誠を示そうとした場所が、今の岩のドームの場所だという。そこから、この神殿の丘は特別な地となっている訳だ。そしてユダヤ人が、エルサレムに今から3000年ぐらい前にその場所に建てたのが、今はなき最初の神殿である。

その後、今から約2000年前に、エルサレムの近くのベツレヘムの馬小屋で、イエス・キリストが産まれた。イエスユダヤ人で、エルサレムにも頻繁にやってきていた。そして、ルールに厳しいユダヤ教に対し、「もっと自由で、弱き者に優しい教え」を広めて人気を集めていった。そして、最終的にはユダヤ教を脅かす存在として、エルサレムで十字架にかけられ殺されてしまう。で、その後、ユダヤ人はローマ帝国によりこの地を追い出され、世界中に離散。ローマ帝国によりキリスト教が広められていく。

そして、紀元後7世紀になると、今度はアラブ軍がエルサレムを征服し、サウジアラビアにあるメッカ、メディナに続くイスラム教第3の聖地とした。イスラム教が最も大事にする預言者であるムハンマドは、今は岩のドームがある神殿の丘の岩から昇天したとされている。で、そのムハンマドの祖先もアブラハムなのだという。

これらの宗教の聖書などの話は、どこまでが真実か分からないところもあったりするけど、そのストーリーを世界の多くの人が信じて、日々の支えにして生きている。その3つの宗教の聖地の全てが、歩いて10分ぐらいの近さで集まっていて、体感できるのだから、エルサレムの旧市街はすごい場所である。

なお、特にキリスト教に関しては他にも多くの見どころがある。エルサレムには最後の晩餐をした部屋も、エスが十字架を背負って歩いた道(ヴィアドロローサ)もある。他にも様々なイエスゆかりの地に教会が建てられ、訪問することができる。また、車で30分ほどのベツレヘムはイエスが産まれた場所で、毎年クリスマスに世界中にミサが中継される生誕教会がある。さらに、エルサレムから1.5~2時間ほど北に行ったナザレガリラヤ湖周辺には、新約聖書の最初のところから出てくる、イエスが伝道をし、数々の奇跡を起こした場所の数々があり、その後に教会が建てられて、巡礼の地となっている。

2.イスラエルによるパレスチナとの紛争と占領

 ~「④ヨルダン川西岸内の難民キャンプ、分離壁、入植地、検問所」

3つの宗教施設は観光の定番として誰もが訪問するが、それにあわせて、エルサレム周辺で現在も続いているイスラエルパレスチナの紛争についても見て感じて帰ってほしい。決して危ないところに行かなくても、現地に行き、話を聞くだけで、良く分からなかった占領というものによる当事者の暮らしへの影響を知ることができる。

僕が知っている一番お手頃でおすすめの方法は、エルサレムから車で30分ほど行った生誕教会のある観光地ベツレヘムに行く際に、あわせてみてくることである。検問所を通りぬけてすぐそばには、分離壁に書かれたアートがあり、分離壁の向こうには、イスラエルが一方的に開発して住宅地を建てた入植地が見える。話題の覆面アート集団、バンクシー分離壁に書いた作品もあり、それぞれの作品には秘められたメッセージがある。バンクシー分離壁沿いに最近作った「世界一眺めの悪いホテル」の中には、こじんまりとした博物館があって、パレスチナ紛争の現実をコンパクトにまとめて教えてくれる。その近くにあるアーイダ難民キャンプの入口あたりを歩いて見て周り、イスラエルによる占領の話をパレスチナ人から聞くと、いろいろなことが見えてくる。

特に難民キャンプの中は様子が分からないので、僕らは日本のNGOの紹介で、ベツレヘムに住むパレスチナ人にガイドをお願いして2度ほど見せてもらった。パレスチナ人の視点が分かり大変良かった。先日、イスラエルのスタートアップやイノベーションについて視察に来た日本人の方々も、同じガイドの案内でベツレヘムを訪問したが、イスラエルを多面的に理解するうえでとても有益、かついろいろ考えさせられたという声が多かった。バンクシーホテルでも、分離壁をまわるツアーを1日2回やっている。エルサレムからは半日でまわれるので、無理をしてでも見て帰ってほしいと思う。また、もともと関心がある人には、ラマッラにあるヤーセル・アラファト廟に併設されているアラファトミュージアムが、パレスチナ問題の歴史をアラファトの生涯とともに映像と写真で紹介されていておススメである。

以下のリンクのように、ヨルダン川西岸を見せるツアーも行われている。

https://www.toursinenglish.com/2008/01/west-bank-tours.html

ちなみに、検問所や入植地周辺、難民キャンプは、時にイスラエル兵や入植地の住民とパレスチナ人との小競り合いがあるので、注意は必要である。そして、もう一つのパレスチナ自治区であるガザ地区は、治安上の問題から一般の観光渡航はできない。援助関係者やメディア関係者が、治安情勢も見つつ、イスラエルパレスチナからの了解を得て中に入り活動している状況である。

3.ユダヤ人の迫害とホロコースト

~「⑤ヤド・ヴァシェム(ホロコーストミュージアム)」

イスラエルパレスチナの問題を考える際には、そのバランスがとっても大事だと思っている。イスラエルが現在行っている占領による強硬で人間的でないパレスチナ人の扱いは明らかに問題。ただ、それをもってイスラエル人を嫌ったり、ひどい人たちだと考えるのも間違っていると思う。イスラエル人には、教育や周りからの情報により、パレスチナ人は危険なテロリストだと思っている人もいる。そして、パレスチナ地域は危なくて入ると危険な場所とされていることから、一生の間に行くことはまずない。そうして、彼らの多くは、人懐っこいパレスチナ人が、占領により厳しい状況で生きていることを認識せずに生きている訳だ。そもそも、イスラエル人は高校を卒業すると、男性は3年、女性は2年ほど徴兵され、パレスチナを含む周辺国、地域と戦うことで国家を守るために働いている。その時点で、パレスチナ人は彼らにとって「敵」なのである。

ユダヤ人は、2000年前にこの地をローマから追われ世界中に離散して以降、様々な迫害を受けてきた。そして、迫害から逃れてこの地に新しい国を作ろうと集まってきたことで、もともと住んでいたパレスチナの人々と土地を争う問題が始まったわけである。ユダヤ人を理解するうえで、迫害の歴史と、その最も悲惨な出来事のナチス・ドイツによるホロコースト=集団殺戮を理解することはとても大事だと思う。そのためにも、エルサレムにあるヤド・ヴァシェム(ホロコーストミュージアムもぜひ訪れてほしい。

そもそも、ホロコーストは、ヒロシマナガサキの原爆投下とともに、人類史上で最近起こった最も反省すべき事件であり、自分の心に落とすことは大事なことだと思う。そして、建国後も周囲をアラブ諸国に囲まれ、何度も戦争をくぐりぬけ、領土を確保、拡大してきたイスラエルは、実は潜在的に常に迫害におびえ、また国家存続とユダヤ人存続の危機を恐れているとも言われている。実は、イスラエルの人々も、パレスチナに対して犯している罪は置いておいて、平和な世界を望んでいるという。じゃあ、どうしてこんな現実が続いているのか。そんな答えのない現実を、もやもや考えるきっかけにもしてほしいと思う。

 

以上の3つがエルサレム旅行で大切なテーマだが、もう一つ外せないのが、死海でぷかぷかする浮遊体験である。何といっても、この体験は一生においてここでしかできないし、実際やってみると笑っちゃうぐらい面白い。常識がくつがえされることを体感する面白さ。泳げない人も簡単に浮いちゃうし、浅いところでやれば問題なし。お肌がきれいになりたい方は、泥を身体や顔に塗るもよし。海抜がマイナスで、エルサレムより暖かいので、本当に冬の寒い時期以外なら、無理をしてでも入ってみるほうがいい。少なくとも、水着を持って行ってみるべきである。

 

 

以上、これからエルサレムに来る方は参考にしていただき、またその予定のない方も、ぜひ旅行を考える参考にしていただければ、と思う。