エルサレムで主夫はじめました

~~~~~~~~ 30年間のサラリーマン生活から早期退職をして、イスラエルのエルサレムに家族で住み、主夫をはじめました。 ~~~~~~~~~~~~~~インターナショナルスクールに通う子供たちの様子、イスラエルとパレスチナの日常、主夫の心境などをつづります。 内藤 徹~~~~~

#29 主夫ってエライ?なんか偏っている日本の夫婦像

 こちらにいて自己紹介で、「子供の世話をするハウスハズバンドです」というと、大体「いいですね!」、といわれる。奥さんに任せて仕事を休んで、自分の時間ができて、という風に取られるみたい。日本人に言われることの多い「えらいですね!」、はあんまり言われない。日本だと、奥さんの仕事を優先して、とか、男性がやりたがらない家事をやって、という風に取られているみたい。そして、「えらいですね」、の裏には、きっと、「珍しいですね」、という意味も込められている。でも、実際は、家事があんまり苦にならず、自分で自由にやりたい人には美味しいポジションである。そして、海外で、子どもの世話をしながら無職になることは、日本でいきなり無職になって次の仕事の準備をすることと比べると、「自分は何もしていない、何かしないと」、という余計なプレッシャーを感じなくて、ゆったりと人生のギアチェンジができて居心地も良い。

 

こちらに来てから、海外で主夫をする日本人のネットワークを教えてもらい入ったけど、そこで知り合った30から40代あたりの働き盛りで海外主夫やっている男性には葛藤があるのを感じる。それは、単にキャリアが遅れるだけでなく、仕事より家庭を優先させる人とみなされることで、仕事の優先度が低い人と見られてしまうところがあると思う。

 

これまでの日本社会では、仕事よりデートを優先させる人って、ダメだよね、みたいなのは暗黙の了解としてあった。そういう意味では、働き方改革が唱えられている今の時代はいろいろ過渡期。そして、海外で主夫をやっている僕よりひと世代若い世代なんかは、社会からの同調圧力から抜け出し新しい生き方をする勇気ある人たちだと思う。まあ、同調圧力より奥さん圧力が強いケースもあるだろうけど。

 

そして、実は仕事を続けたかったけど、旦那の海外勤務にあわせて仕事を辞めてきた女性も、気持ちとしては僕ら主夫と同じだということも分かった。キャリアのハンディにもなるし、仕事よりプライベートを優先させる、という意味では女性も男性と同じ見られ方をする。だから、そんな女性とは、こちらに来てもなんだか話があったりする。

 

僕は、日本の夫婦の役割分担のあり方はもっと多様でいいと思っている。仕事の能力、意欲、その時々の状況に応じ、フレキシブルにできれば、それがいいと思う。サラリーマンを一旦休むこと、子育てをどっぷり経験することは、仕事をその後続けていく上でも、また社会生活を送る上でも、プラスになることが多い。視点が増え、違う立場の気持ちが理解できるようになったり、良いリセットの時期になったり。そして何より、子どもと一緒の時間が格段に増え、苦労を超えた喜びを知ることができ、きっと将来につながる絆ができるとも思っている。

そもそも、主夫の仕事って、女性が向いているというわけでも必ずしもないとも思う。こちらでも、マーケットで買い物をしたり、ベビーカーを押している男性は普通にたくさんいる。

 

育児休暇の男性取得義務化が話題になったが、取得が義務というのはこれまた「横にならえ」でなんだか違和感がある。どのような形で育児休暇を取るのが良いかは人それぞれ。その状況と希望を尊重して対応することが大事と思う。その会社で奥さんが働いて旦那が育児休暇を取るのが良いならそれももちろん良い。逃げ場もない育児を経験することが育児の大変さの真髄とも思う。また、奥さんが休んでいて、さらに旦那が育児休暇を一緒に取る事も否定はしない。我が家は、妻が毎回出産後1年休み、僕は有休は使ったけど、特に育休の申請はせずに対応した。

制度としては、育児休暇を希望すれば必ずとれるよう、夫婦の取得義務ではなく、会社に対して育児休暇申請を100%許可義務とする方がいい。育児休暇の申請を拒めない仕組みと社会風潮を作ることが大事。

 

さらに言えば、育児休暇は目に見えやすい男性の育児参加の対外表明かもしれないが、自分の経験から言えば、期間限定の育児休暇よりも、その後子供が保育園に行ってからの何年にもわたる朝晩の送り迎えや、その後小学校に入ってからもずっと続く食事等の分担が家族マネジメントの上では大変だった。保育園に間に合うために夫婦で仕事や夜の予定の折り合いをつけるためには、仕事を切り上げ定時、または場合によっては定時前に帰る事を組織がサポートすることが実はとても大事だと思う。また、突発の子どもの病気の対応をサポートしてくれる組織の許容力も不可欠だった。だから、組織が子育てのために親に多様な働き方を許容することを義務にすることが本質的に大事だと思う。

 

子育てに男性として人並み以上に関わってきたことで、子どもの人生を通して別の人生や過去の子ども時代の追体験をする楽しみが得られた。大変ではあったけど、楽しかったなあ、というのが実感だし、それはエルサレムに来てからも同じである。ここは、日本のように友達と自由に遊び歩いたりできないこともあり、子どもとは親子であるとともに、友達関係でもある必要があると思っている。それはそれで楽しんでしまうと楽しい。ムスコとお気に入りのドラマを選んで一緒に入り込んでみたり、ムスメと韓国アイドルのグッズ選びを楽しんだりしながら、「あー自分もこんな頃があったなあ」と、子ども心を取り戻すような時間が過ごせている。

 

主夫の仕事というのも、やってみるとなかなかいろいろある。掃除、洗濯、料理だけでなく、その他の細分化された様々な小さなマネジメント業務がある。

 

買い物マネジメント。消耗品が足りなくならないように。トイレットペーパーがない、なんてことになると困ってしまう。

食材マネジメント。何が足りない?冷蔵庫に入れるスペースがある?どこに買い物に行く?日本から何持ってきてもらう?

食事マネジメント。喜んで食べてもらうネタ探し、栄養バランス、時間かけない、家族それぞれのわがままを適度に聞く。

時間マネジメント。子供を遊ばせる、勉強させる、出かける、人が来る、そのバランス、休み明け前日は早く寝るとか。

娯楽マネジメント。どこに出かける?旅行は?一緒にYouTube見る?日本に電話する?

勉強マネジメント。宿題は?学校からの連絡は?行事の準備は?日本の勉強は?進学は?こっちでもっとできることは?習い事は?

ヘルスマネジメント。体調は大丈夫?薬買う、病院行く、休ませる、食事気配り。

メンタルマネジメント。けんか、落ち込んでいる、つまらなそう、を察知して、さりげなくフォローする。

家計マネジメント。どこでお金を使い、どこで絞るかのメリハリ。せっかくだから海外旅行に行きたいけど、お金かかるから、その分、どこで節約するか。

住まいマネジメント。家具をどうする、物の配置、家族の過ごし方を見た改善、掃除。

衣類マネジメント。洗濯をする、気温にあわせた洋服、足りない衣類はない?日本から持ってきてもらう。

 

考えてみると、こんなことが毎日順不同でやってくる。昼寝もできちゃうけど、いつまでたっても業務時間みたいな感じ。

共働きをしていた時期も、半分は家事をしていたので、ある意味同じことをやってはきた。けど、今は主夫がある意味本業で意識がフォーカスされているからこそ、こんなことも考えたり、書きたいと思ったりするもんだ。