エルサレムで主夫はじめました

~~~~~~~~ 30年間のサラリーマン生活から早期退職をして、イスラエルのエルサレムに家族で住み、主夫をはじめました。 ~~~~~~~~~~~~~~インターナショナルスクールに通う子供たちの様子、イスラエルとパレスチナの日常、主夫の心境などをつづります。 内藤 徹~~~~~

#31 ぶっちゃけどうよ?イスラエル側の日本人にパレスチナについて聞いてみた(その1)

最近、テルアビブ方面に住む日本人女性と、パレスチナイスラエルに関する対話をメッセンジャーで始めた。

これまでは、パレスチナ側から見た意見をずっと聞いてきたけど、イスラエル側にも当然それなりの考えや背景があるはず。最近、もっと知りたいと興味を持ちはじめたけど、パレスチナの状況も知りつつ、イスラエル側に立ってこの件を話せる人が身近にはなかなかいなくて。

その女性は、テルアビブ方面に住み、イスラエル人と結婚して、パレスチナ支援の仕事に関わってきた経験もある人。イスラエルから見たパレスチナについて聞いてみたところ、いろいろ考えがあり、ずっとやり取りが続いた。そして、対話をしながら「こういうの書かれたの読んでみたいよね。」という話になり、なら僕のblogに載せようか、ということになった。

彼女は、「あくまで個人的な意見なので、イスラエル人が全員同じ考えではないし、私も間違っているかもしれません。そして、私が「パレスチナ」と言うとき、私の中では「パレスチナ政府」と「パレスチナの市民」は完全に別物としてとらえています。あと、お互いの悪いところをあげつらうのでなく、お互いの良いところを書けるようになりたい、心の底からそう思っています。」と思いを伝えてきた。

僕もまだまだ勉強不足で分かっていないことが多い。こちらにいる日本人には、研究者、記者、援助関係者など、僕なんかよりよっぽど現場で生の声を聞いたり、過去の経緯を文献で読み、詳しく知っている人がいる。そんな人からすれば、未熟な会話かもしれない。だけど、世の中にあるものはそれぞれ片方の立場から書かれたものがほとんどで、どこで話がこじれているのか良く分からない。なので、対話をあえて掲載することで、お互いの食い違いに気づき、少しでも相手を理解する糸口になったり、もっといろんな意見を聞くきっかけになればよいなあ、と思っている。

では、まず1回目のやり取りから。

 

以下、2019年11月8日のメッセンジャーでのチャットより(抜粋、適宜修正)

(僕(以降●))イスラエル人と結婚していて、パレスチナ支援の仕事をしていたというのは、この国においては特別な立場にいますよね。どんな思いでいるのか興味あります。

 

(女性(以降◆))ラビン首相暗殺後の第2次インティファーダイラク危機、レバノン戦争やガザ占領からの撤退といった、イスラエルパレスチナを取り巻く環境もそのたびに大きく変わりました。 9.11やISの台頭という世界的にも大きなうねりがある中、イスラエル人の家族を持ちながらパレスチナ支援をするという、とても貴重な人生の体験をさせていただいたと思ってます。

 ●この間、ベツレヘムに日本人ガイドの案内に同行して行ったけど、イスラエルからみたパレスチナの話が聞けて面白かったです。パレスチナ支援関係者なら怒り出しそうな説明でしたが。オスロ合意後の話も両者でまるで違う認識で、まさに個人の喧嘩と同じ。それぞれの認識と正義が違うんだなあ、とあらためて思いました。エルサレムの僕のまわりはパレスチナ支援関係者が多いので、これまでそちらの視点ばかりで見てしまっているなあ、とも思いました。

 

◆そうですね。もう、建国の時からの認識が全く違います。イスラエル的には、当時この土地を統治していたイギリスから建国の許可を得ていますし、国連からも許可を得ています。国境に関しても、国連の決めたラインを承諾しました。

そういった手続きを踏んだ上で建国したにもかかわらず、周辺諸国が戦争を仕掛けて来た。そこで受けて戦ったところ、勝って領地が拡大した。けれど、そうなったら今度は、戦争を仕掛けて来た国や、国際社会が、「イヤ、国連が決めたラインまで戻れ」と言い出した。

「いや、イスラエルとしては国連で承認された建国の条件を承諾したのに、それがイヤだと言って戦争を仕掛けて来たのはあなた達ですよ」、と。「それを今更戻れとはどういう事ですか?」という感じですね。

パレスチナについては今まで国を持っていたこともないし、この土地を統治していたこともなかった。イスラエルが死ぬ思いで建国した途端に、ここは自分の国だと言い出した。正しいか間違っているかは別問題としても、そういう認識なのです。

 

●なるほど、パレスチナ側は今まで統治していたわけでもないし、手続きも踏んでいるから、あくまで隣国、という認識になるんですね。そして、確かに戦争を仕掛けたのはアラブ側ですね。そこは僕もそうだと思います。でも、そこにいた人を追い出したじゃん、そして大量の難民が発生して今も戻れていないじゃん、とパレスチナ側は思ってますよね。

 

◆国という意味では、現代の国という認識と、中東地域の以前の家長制度??王国制度??の国とは、全然モノが違います。正直、中東地域の政治的なことが書かれている日本語の本は、ほとんどパレスチナ寄りです。やっぱり「パレスチナ=かわいそう」という本でないと日本では売れないと聞きました。

 

●でも、パレスチナ支援関係者は、パレスチナで起きている事実の割に報道が少ないと言ってますよ。まあ、イスラエルはいまだ入植や人権侵害をしてるから、そこは不利ですよね。パレスチナ人にとっては、入植も検問や移動の不自由、追い出しにより戻れないままの70年はすべて不本意だと思います。

 

◆人権侵害というのもなかなか抽象的で難しい話だと思います。パレスチナ政府も一般市民の人権侵害はたくさんしていますし、イスラエルに対して、パレスチナ一般市民を攻撃するようにあの手この手を使ってきます。病院やモスクを武器庫にしたり、幼稚園の近くに軍事攻撃基地を作ったり…と。パレスチナは、メディアが一番の武器ということをよく心得ているのです。そして、難民はいつまでもかわいそうな難民でいなければならない。それがパレスチナ政府の収入源でもあるからです。

検問所については、あの検問所でどれほどのテロを未然に防いでいるか、何人のイスラエル人の命が守られているか。さらには、テロを実行していたら失われたパレスチナ人の命、そしてテロが実際に起きてしまった場合に勃発する危険がある紛争で失われるであろう命が守られているか、外国人にはわからないのだと思います。

イスラエルの国境は、西岸やガザに限らずどこでもセキュリティーが厳しいです。何年か前までは、ヨーロッパ諸国がイスラエルの国境や検問所の検査の厳しさを散々非難していたそうですが、最近ではヨーロッパ諸国から国境管理のメソッドを教えてほしいとの要請が絶えないそうです。まあ、対岸の火事である間は、皆、言いたいことが言えるし、理想も振りかざせますよね。

 

●なるほど、そういう理解のされ方をしているんですね。でも、イスラエルのガザでの圧倒的な軍事力の差、被害の差については、パレスチナ側はメディアに訴えるしかないんでしょうね。検問所も、非人道的な扱いを受けていると感じています。

 

◆軍事的に圧倒的な差があるというのは事実ですが、それはパレスチナイスラエルという局部を見た場合のみです。 裏には核開発のペルシャ=イランが控えていますし、複雑なアラブ諸国の関係が直接イスラエルに降りかかってきますから。 イスラエルは、パレスチナがイランに操られて石を投げてきたからと言って、同程度に立って石でやり返そうという発想にはならないのです。

 

●あー、なるほど。そういう見方なんですね。イスラエルパレスチナではない。周辺国も含めての戦いだと。それは建国以来、そうですよね。

 

ユダヤ人は、第二次世界大戦時代、自分たちを区別するための黄色い星のバッジを胸につけることを許していたら、大量虐殺された、というつらい記憶を持って、今も生きています。 ミサイルを投げ込まれ、それが民家に着弾する事実を目の前にして、「国際的な評価」を気にしている余裕はないのです。

大量虐殺で、ユダヤ人が得た一番の教訓は、自分の身は自分で守らなければならない、ということです。一番の反省点は、あの虐殺を許してしまった自分たちなのです。だから、もう絶対に「国際社会」を信用しない人たちなのです。それは、現在の国連が全く頼りにならないことも関係しています。

 

●なるほどですね。パレスチナ支援関係者は、イスラエルが、国連や国際社会が決めたことも守らない、国際法を違反している、と批判しますが。噛み合ってないことだらけですね。

 

イスラエルは「国際社会の評価」を全く気にしません。良い評価を得て虐殺されるか、悪い評価を得て生き残るか。彼らにとってはこの二者択一です。

 

●うー、うなるな。そういう思いになれば、「国際社会に関係なく、生き残る選択肢をするしかない」、となるわけですね。

 

イスラエルは「パレスチナ支援関係者」の意見は、よそ者の意見だと思っています。当事者であるパレスチナ人の意見を常に見ています。そうすると「イスラエルを海に叩き落とせ」 という感じなのです。ただ、イスラエルパレスチナ対立を語る時、イスラエル側につくと、プロパレスチナの人たちから嫌がらせされそうで怖いです。対立の根が深すぎて、絶望しかないですね。

 

パレスチナ側とイスラエル側のそれぞれの視点、正義がありますね。それを対比して分かるように文章に書いたりできないですかね。ひとつの答えはないと思うんです。ただ、事実はあるし、それぞれの思いも、心の中の事実としてある。間違えていても、認識は、それでその人の中では事実ですよね。

 

◆書いてみたいですね。なにかできないかと思います。どちらが正しい!とかでなく、お互いが、ああ、そういうふうに思ってるの?的な。難しいけど、お互いの「事実」を理解できたら、もう、大進歩ですよね。

 

●僕は既にパレスチナよりになっているけど、フレキシブルなのでね、良くも悪くも。

 

◆私はもう、完全イスラエルよりですよ…。何といっても、子供達の将来がかかっているので…。

 

●この件、普通の本や文章だと、ちょっと読んで立場が自分の側と違うと読まないですよね。

 

◆そうですね。苦しくなるので…。でも、この地域の問題を解決するには本当にフラットな目で物事を見ないといけないと思うのです。

 

●苦しくなるんですね。イスラエルの人は過去に苦しみ、現状にもある意味、罪悪感のような苦しみがあるんですかね。なんか、奥深いです。また少し分かったような、まだ全然分かってないと気付かされたような。

 

◆そうですね…。 罪悪感と、なぜそうならざるを得ないか…というような、物事の裏にあることが全く配慮されていない苦しみですかね…。

 

●僕はずっといる人じゃないから、苦しみという感覚は正直分からないです。

 

◆ずっとはいない人、だからこその視点ってあると思うのです。 本当は「国際社会の視点」ってすっごく重要なんですけどね。

私もあることに気付かされました。ちょっと長くなるので今は書きませんけれど…。

 

●なんだろ?また聞かせてください。

話していて、イスラエルパレスチナも、どこか思考停止しないとやっていけない立場におかれているのかもと、ふと思いました。長くなるので、今日はこの辺で。