エルサレムで主夫はじめました

~~~~~~~~ 30年間のサラリーマン生活から早期退職をして、イスラエルのエルサレムに家族で住み、主夫をはじめました。 ~~~~~~~~~~~~~~インターナショナルスクールに通う子供たちの様子、イスラエルとパレスチナの日常、主夫の心境などをつづります。 内藤 徹~~~~~

#32 ぶっちゃけどうよ??イスラエル側日本人にパレスチナについて聞いてみた(その2)

イスラエルパレスチナに関する日本人女性との対話の前回の続きです。

ちょうどイスラエルによるガザでのイスラム聖戦司令官の殺害をきっかけに、ガザからイスラエルに対しロケット弾が飛び、イスラエルによる空爆の応酬があった後のやりとりです。

https://www.bbc.com/japanese/50429248

 

以下、2019年11月14日のメッセンジャーでのチャットより

(僕(以降●))イスラエルによるガザでのイスラム聖戦司令官の殺害と、その後の報復合戦で、テルアビブ方面は落ち着かない日々かと思います。

 

(女性(以降◆))何とか停戦になりましたね。イスラム聖戦側は「停戦」とは言いませんが。まあ、ハマスやイランと言った後ろ盾がなければ力の差は歴然としていますね…。

 

パレスチナ側の報道は、当然のごとく、パレスチナ側がどれだけ被害を受けたかが報道されています。今回も子供たちなど民間人が巻き込まれていることが伝えられています。そして、イスラエル側に比べたパレスチナ側の被害の大きさが語られています。これも毎度のことですね。

 

◆テルアビブの南の私の主人の親戚が住む街は、今回ガザからのミサイル攻撃を受けました。主人の姉には小さい子供もいるので、空襲警報が鳴ってシェルターに逃げ込むのは本当に大変だったようです。とは言え、これは別に初めてのことではなく、何年か前も同じようなことが何度も起こっていますし、ガザ周辺に住んでいる人はそれが何年も続く日常です。

そういう日常を過ごしていると、今回のように、イスラエルハマスの紛争をあおり続け、ガザからのミサイル発射の指示を下していた人物が暗殺されたことは、うれしいことなのかもしれないです。

 

エルサレムの日本人は援助関係者が多く、ガザに頻繁に出入りしてガザのパレスチナ人を支援している人も多いので、テルアビブとは大分状況も、今の状況の見方も違います。

 

◆多分、世界とイスラエルの認識の大きな違いの一つに、「テロリスト」が何かの定義づけがあると思います。今回の爆撃によってガザで殺された人物は、イスラエルに言わせると大部分が「テロリスト」です。

 

●ただ、今回も民間人に犠牲が出ているのも事実ですよね。ガザでイスラエル空爆をする際には、その前に警告をして民間人に怪我が出ないように配慮をするとも聞いていましたが、今回の状況につきガザにいる人に間接的に確認したところ、今回小さな建物を空爆する際には警告なしでやっているケースもあるとのことでした。また、学校も空爆されているようですね。

イスラエルを狙うテロリストを暗殺するということ自体は分かりますが、民間人や子供の犠牲に関しては、国際社会も、パレスチナ側も、問題視します。今回も、空爆で30人以上死んでいるガザに住む人は、自分自身が死ぬ可能性があるゆえの恐怖や怒りを感じているはずで、それはイスラエル側の警報以上に切実だろうと思います。比較するような話ではないのかもしれませんが。

だから、ガザはここまで力の差が歴然としていても、現地で攻撃をすることが支持され、デモで死んでいくこともいとわない若者が育っていくのかなあと思います。希望がないこともあいまって。それはとても悲しいことだと思います。

 

◆ガザの民間人に犠牲者が出た。イスラエル側は犠牲者がいない。=イスラエルが悪い。とても簡単な構図ですよね。イスラエルが民間人側に犠牲が出ないためにどれほどの犠牲を払っているか、国際社会は多分考えたことがないと思います。

イスラエルは基本、攻撃より防御です。今年、イスラエルの民家にミサイルが着弾した後も、報復までにけっこう時間がかかりました。もちろん報復するのは明け方が一番良いという戦略的な意思決定があるのもそうなんですけれど、翌日の学校や、地域のシェルターのために地方自治体に連絡したりと、防御をまず完全に整えてから報復に出ます。言い換えれば、防御できない場合にはイスラエルは攻撃しません。それは、イスラエルは、防御が出来なければこの国が終わると信じているからです。

 

●そういう認識なんですね。

 

◆そして、ハマスは、病院やモスク、教育機関を武器庫にしています。さらに、ハマスは、イスラエルの民間人に対して攻撃してきます。それについて国際社会は何の批判もしない。イスラエルがそれに対してできることはとにかく民間人を殺されないようにすること。あんなに正確な迎撃機、アイアンドームができたことは偶然でも何でもありませんよ。

ハマスイスラム聖戦も子供やお年寄りを狙っています。イスラエルの幼稚園にミサイルが着弾することもしょっちゅうですよ。イスラエルは自国民を殺したくないので、それに備えているのです。

イスラエル人が殺されるまで待たなければ、反撃は許されないですか?「幼稚園や民家に着弾しただけで誰も死んでいないのだから反撃はするな」。国際社会がイスラエルに求めているのは、そういうことのように感じます。

正直なところ、私はこの国の将来が自分のこと以上に心配なので(私の子供の将来なので)、感情に流されまくりです。適切でないことも書いたかもしれません。 個人のつぶやきと思って聞き流していただければと思います。

 

●なるほど、イスラエルの未来が自分の子供の未来、というのはまさにそうですね。そう思うと、国の行方も、セキュリティも心配ですよね。昔は、今僕が住んでいるエルサレムの近所でもテロが頻発していた時代がある訳ですし、これからもどうなるか分からない、という思いなんですね。

 

◆私は、パレスチナ支援関係者がパレスチナという国を本当に作りたいんだったら、イスラエルの建国の軌跡をしっかりと学ぶべきだと思います。パレスチナのように世界中から支援を受けたわけでも、国連からどんどんお金をつぎ込んでもらったわけでもないイスラエルが、なぜ建国できたのか。「正しい支援とは何か」に対するいろいろな答えがこの二つの対照的な国の歴史から学べると思うのです。こんなに身近に建国のお手本があるのに、「悪い、悪い」というばかりで何も学ばない。被害にあった当事者ならともかく、なぜ日本人がそれをやらないのか理解できません。

 

イスラエルの建国に学ぶべき、というのは自分たちが新しい土地で、自力で国を作ったところですか。

 

◆そうですね。ゼロだったところに国というものを作り上げた。世界にあまり例を見ない事象です。

 

●確かに、それはすごいことです。そして、ユダヤ人が安住できる国を作りたかったことは賛同しますが、イスラエル建国により、その地に住んでいたパレスチナ人を追い出したこと、そしていまだに西岸や東エルサレムで入植や追い出しを続けていることは、僕は賛同できません。ただ、この地での建国はイギリスが認めているわけで、ユダヤ人が勝手にやってきて追い出したわけではないと言えばそうなんですよね。そういう意味でのイギリスの罪は重いですね。

 

◆当時のイギリス政府の3枚舌外交の罪は重いですが、イスラエルの建国は国連が承認しています。「国連は信用ならない!」と怒りつつこういう時だけ国連を持ち出すのはずるいのは分かっていますけれど、イスラエル建国は国際的にも認められたのは事実です。賛成33か国、反対13か国、棄権10か国、これで認めさせた。でも、それよりも重要なのは、建国したその国が機能しているという事実だと、私は思います。

時代背景その他はいろいろ違いますけれど、現在国連をはじめ、パレスチナを支援している国はイスラエル建国を認めた、たったの33か国よりもたくさんあると思います。しかも、パレスチナは「独立宣言」もしているのです。

もちろんイスラエルも問題はたくさんあります。すべてが正しかったとはみじんも思っていません。「イスラエル建国」の話をすると多くの人は「でもアラブ人が追い出された」とか「先住民を追い出して」という方に目が行きがちです。それはそれで事実なんですけれど、それとは別の事実、「国を作った」というところにフォーカスをしてみると、多くのことが学べると思います。

私は国際社会がイスラエルの行動について批判をするとき、いつも思うことがあります。「それなら代替案を出してくれ」と。 イスラエルだってこれが最良と思ってやっているわけではありません。でも、仕方がないのです。それを国際社会は「ダメ、ダメ、ダメ」と。それならば、どうすればよいのですか?「より良い案がないならは、他人が、あれはダメ、これはダメと簡単に言うな」と思います。あれがダメ、これはダメと言うのはとても簡単なことです。イスラエルは国際社会以上にそれを考え尽したうえで代替案がないために、自分たちが殺されないためにその案を採用しているのです。

 

●自分たちが殺されないために、なんですね。根っこのところで、自分たちがまたこの地を追われる、という恐れがあるんですよね、きっと。そこが、イスラエルの人達や国家の行動を理解するうえでとても大事な気がします。

僕は、パレスチナの問題は開発の問題というより、イスラエルとの関係における人権の問題であり、また格差、差別の問題だと思っています。ので、生活改善のための開発は、現在の問題に対しての根本的な解決のためのアプローチではないかと。ただ、政治的なアプローチは政府機関もNGOも、イスラエル政府のもと、やることはできないので、しょうがないと言えばしょうがない、という感じだと思います。そのことは、やっている人もある程度分かっていて、できる範囲で工夫してやっている、ということだと思います。

 

◆「政治的なアプローチはイスラエル政府のもと、やることはできない」といいますが、外国がそれをやるのは内政干渉なのではないでしょうか?どの国も、例えば他国のNGOや政府が他国の政府の決定に関して覆したり変更する権利はないと思います。
ただ、「発言の自由」や、「言いたいことを言える相手」という点だけ見れば、それはパレスチナ政府よりもイスラエル政府相手の方がよっぽど自由度が高いというのが私のイメージです。

イスラエルにはアラブ人が作った政党もあります。イスラエル建国ですべてのパレスチナ人が土地を追われたと思っていらっしゃる方もいますが、そうでないパレスチナ人もいますし、そういう人たちはイスラエルで国民として普通に暮らしています。

パレスチナイスラエルに協力して何かの活動をしているといううわさが一回広まったら、たとえそれがどんな活動であろうと許されないと思います。それを考えたら、政治的な自由度が大きいのはイスラエルであることは間違いないと思います。

「援助関係者には影響力がある」という考え方がありますが、その援助関係者が「当事者同士の歩み寄りや会話を促す」方向に向いていなく、当事者同士が考えたり意見を交換する機会を奪う方向に向かっている気がします。

 

パレスチナ側から見たイスラエルは、国内政治ではなく、パレスチナ側に対してやってきていることを見て判断されているので、イスラエルが民主的で寛容な国とはとても思えないでしょうね。援助が当事者の歩み寄りを促す方向に向かっていない、という意見は、他のイスラエル側の方からも言われたことがあります。僕は、まだその意見はぴんときていませんが、なんとなく気になっています。また、最近聞くのは、パレスチナ国家の樹立なんてもう無理で、イスラエルと一緒になる一国家での解決というのが現実的という声です。一方で、一国になると困るのはイスラエルという話もあり、どこに向かうのが解決策なのか分からないですよね。

 

◆一国になると困るのは実際にイスラエルなのは周知の事実です。「ガザも西岸もイスラエルの土地」などと考えているイスラエル人はほんのひとつまみの狂信的な人だけだと思います。

 

●ところで、僕が今思うのは、日本人でもイスラエル側とパレスチナ側で理解や話ができないようでは、当事者の理解なんて到底できないだろうな、ということです。

 

◆「外国人同士がイスラエル側とパレスチナ側に分かれて理解ができないなら当事者の理解はとてもではないが無理」という考えは、とても賛成です。

それでも、世界的に見れば「イスラエル側についている人」というのはあまりいないと思います。

ユダヤ人は今でも、アメリカでも、ヨーロッパでも様々な差別を受けていますから。イスラエル側につく人間というのは日本人を除けばユダヤ人しかいないというのが現実、という気すらします。まあ、半分冗談、半分本気ですけれど。

 

●個人の感覚として、イスラエルにいてもいまだにユダヤ人は差別されている弱者という感覚でいるんですね。それはちょっと意外です。国家という意味では、結果的にはアメリカを後ろ盾にし、国際社会の声も聞かず、強い軍事力を誇る強者に映っていると思います。その強い国家により、パレスチナは弱者として痛めつけられている、という感覚でいると思います。その国がやっていることと、個人の思いのところに大きなギャップがあるようにも思います。もしかしたら、パレスチナ側が、イスラエル国民の弱者の意識や思いを理解することで、新しい関係みたいなものが見えてくるかもしれないですね。まずは、パレスチナに関わる外国人からでも。

エルサレムにいると、パレスチナ人の視線のみで、親イスラエルの見方に感情的になる人、イスラエル人に対して最初から決めつけて見てしまっている人がいるのを感じます。一人一人の人間の性格や考え方の問題でなく、国やシステムや歴史的経緯の問題なのに。まあ、パレスチナ人とともに過ごし、彼らの身の回りで起きている話を日々聞くと、そういう思いになるのは分かる気もます。ただ、僕はそういう関わり方をしていないから、少し距離をおいて見えているように思います。

一方、イスラエルと結婚するなどしてテルアビブなどに暮らしている日本人は、パレスチナ地域は危ない場所として、入ったこともない人がほとんどではないでしょうか。別に一般のパレスチナ人はテロリストでもなく、実際は、人懐っこく、日本人に対して親近感を持っている人たちなのに。

 

◆そうですね。

 

●ぜひ、これをきっかけに、いろいろ話をする機会ができるといいですね。あと、テルアビブ方面の人に、例えばベツレヘムを案内する機会なんかを作りたいですね。